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う、あの何となく品のない花の盛り方をしてどうも様にならない。あの辺はもっと勉強したほうがいいと思います。
さて、いろいろな事を申し上げてきましたが、やはり日本の行事や文化について、お茶の事であろうと、仏像の事であろうと、そういう事が話せる人をもっとつくりたいと思います。
それから、これもよく例えに使うわけでありますが、最初に言いました大仏さんなどは見に行きたくないよという人たちに対して、これは奈良の大仏さんではありませんが、鎌倉の大仏さんの話を一つ差し上げて終わりたいと思います。
鎌倉に奈良の大仏さん程ではありませんが、有名な大仏さんがあります。この大仏さんは露仏、つまり屋根のないところにポツンと立っております。銅を主体にした合金でっくられているのですが、実は1955年頃に一騒動が起こったのです。お寺のお坊さんが大仏の顔を見て、「大仏さんが怒っている」「いや、泣いている」と騒いだのです、顔が変わったというのですね。それで東京大学の材料研究所の若手の助手が教授に「お前、行ってこい、何かうるさいことを言っているから調べてこい」と言われて、それで行ってみたところ、原因がわかったのです。
実はこの大仏さんは下から拝むようになっているので、猫背なんです。背中が丸いのです。重心が前にあるのです。関東大震災の時に、地震で揺れた時に3メートルばかり滑ったのです。あやうく転倒を免れたけれども滑ったのです。そして引き戻して杭で止めたのです。この杭が悪かったのです。鉄だったのです。体が銅で、打ち込んであるのが鉄杭なんです。背中から雨が降るたびにお尻の下に回ってきた。そうすると金属電池という現象が起きる。電流が流れて腐食が始まった。緑青がふいてくる。これがお尻のところを押し上げて大仏さんが前に傾いたのです。傾斜が変わると、人間の感覚というのはすごいです。
顔が変わって見えるわけです。それで泣いている、怒っているという騒ぎになった。それでその錆を落としまして、今度はゴムを当て直しまして、それで新たに別の方法で止め直したのです。たったそれだけの話だったら何のおもしろみもないのです。
記者会見の席上でこの若い助手はとんでもないことを言ったわけです。「大仏さんは痔を病んでおりました」と、「へえー、大仏も痔をやりますか」「そうです、長いこと座っていますからね」と。ここから先は外国の人にはわからないのであります。「病垂れ」に「寺」と書くと「痔」という字なんです。これは通訳の人、ちょっと苦労して通訳していただかないとだめですね。
そういう事が新聞に載った途端に、観光客がワッと増えたわけであります。みんな前で拝んで、後ろに回ってすでに修理が済んでいるはずのお尻の下をのぞき込んだのです。これが現代人の興味というものです。同じ話をどうやって楽しく伝えるのかという事をもっと研究しなければいけないし、それは荒唐無稽なことを喜劇役者が言うようなことではなくて、本当にみんなを楽しませ、そして「ああ、そうか」ということで、今みたいな科学的な話も、人間の感覚も、すばらしさも、あるいはその重心がどこにあるのかという様なことも含めてやはり話をつくっていく事が大事ではなかろうかと思うのです。
奈良の大仏さんにしましても、首が3度落ちている。そしてもともと一番古くからつくった時と同じものは残っていないのかというと、残っているのです。基檀という一番下のべースの台の左端のところ30センチぐらいがもとのままだそうです。ではこれにどんな模様が描かれているか、今ではわからないけれども、今の技術でもってすれば復元することは可能なんです。そういう事をもっともっと整備をしてゆき、この模様は何の模様であるのかということがわかってくると、人々は新たに、もう一度大仏さんの顔を見に行こうということになる。
そういう様に考えてみますと、やはり基本はそこに住んでいる人たちがその街にあるものを本当に愛しており、そしてこの街が好きだという事をどの様にうまく伝えていくかということに、もう少し市民レベルでの努力を払うということが非常に重要になってくるのではなかろうかと思います。
これから後の議論はパネルディスカッションのところで膨らませていただいたり、私の話はおもろいが、かなり根拠の怪しい話をしたという様な事であれば、ご指摘を頂ければありがたいと思います。なにせ専門家ではございませんので、悪しからずお許しを頂きたいと思います。
ご清聴、どうもありがとうございました。

 

 

 

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